日々是GT-R日_part1
ちょっとフラッと走らせるか。
口から漏れそうな声量で心の中で呟き、GT-Rのキーを部屋の一角の定位置から拾う。
普段盗難防止のために取り外しているステアリングを壁掛けのフックから持ち出すと、手が塞がる。
他に荷物を持つ余裕はない。けれども、その必要もない。乗ること自体が目的なのだから。
キョンキョンという小気味いいバックアップサイレンを鳴らし、運転席に滑り込む。
機能的でありながらシンプルな配置のインパネ。追加メーターなど飾り気のあるものは何もない。交通安全のお守りだけで十分だ。
右手首を捻り、セルモーターを回す。
何度もクランキングをせずとも、6気筒がガソリンを燃やし始める。僕のRBはかかりがいい。
アイドリング暖機はほどほどに、狭い住宅街の路地をゆっくり走り始めてミッションやクルマ全体を暖めていく。
夜の帳に馴染むように、焦らずじんわりと。
純正の水温計が北極星の角度を指し示したあたりでアクセルを踏んでいく。
誰かが言っていた。踏み込み量が回転数の上昇幅を超えないように踏んでいくのが気持ち良く、またエンジンにも優しいと。
今日は国道を流すか?それともワインディングを攻めに行くか?
頭上を流れる街灯の下で相談しながら、ウインカーの流れる方へとステアリングを切っていく…。