アリスとテレスの矢

考え事が多いもので。

早朝、出張。

AM5時。鈍色の朝。

電車に乗ると、思いのほか人が乗っている。

スウェットにワイヤレスイヤホンの猫背の学生、なんの荷物も持たない小太りのおじさん、俯いて本を読むお婆さん。サラリーマン風の人はいない。

窓の外の景色はいつもと変わらず、ただ今日は少し天気が悪い。

あっという間に乗り換え駅へ。春の陽気を否定するかのようなホームの肌寒さに嫌気がさす。もう少し厚めのパンツを履いてくればよかった。

6時も近くなるとスーツ姿が増える。さすがは日出国、揃いも揃って視線は日の出を待ちわびんとする水平線の下。

吊り下げ広告なんて今どき誰が見ているのだろう。疎らで面白みもない。どうれ、仕方ない、俺が見ていてやろう。

上を見上げていたのもつかの間、新幹線の駅に着いた。乗ることがほとんど無いので、未だに改札前で切符を買っているアナログ人間だ。

まさかの買い方を間違えて窓口でやり直し。出発まで5分ちょっと、少し焦る。

ホームにはたくさん人がいたような気がしたが、乗り込んでみると車内はソーシャルディスタンス十二分な具合。

そうだ、コーヒーを買い忘れた!

そう思った矢先、車内販売のお姉さんが自動ドアの向こう側から顔を出した。

すかさず、ホットコーヒーをお願いしますと伝えると、取り扱っていないという。

なんてこった。でもこのまま目的地までカフェインなしでは少々心許ない。

「アイスの缶コーヒーならありますよ」

妥協案だがその提案は悪くない。小銭で払おうとしたが、20円足らない。いや、モバイルSuicaが使えるではないか。ドヤ顔でスマホを差し出す僕、慣れた手つきのお姉さん。

車内が暖かくて良かった。時速200キロで通り過ぎているとは思えないほど穏やかな外の景色を眺めながら、冷えたブラックを喉に流し込む。

いつの間にか雨は上がっていたが、相変わらず太陽は顔を出さない。それならこっちももうひと眠り。到着まで、あと2時間。